【掌編】落ち葉に、十一月の雨/【10/18日記】

【掌編】落ち葉に、十一月の雨/【10/18日記】

2021/10/18

しのつく雨は、深い秋を運んできた。山すそのひなびた里を、一時間に一本しかない市営バスで走っている。座席のシートにもたれると、暖房のあたたかさに眠くなる。車窓をばらばらと打つ時雨をぼんやりと眺め、雨のベールの向こうの色づいた柿の木の枝に目をやった。
カラスがゴミステーションの前をうろうろしながら、おこぼれがないかと漆黒の羽根を動かしているのが、速度を落としたバスの窓から一瞬見えたが、あっという間に目に映る景色が更新されていく。バスがブレーキをかけて止まり、少し曲がったバス停から老女が乗り込んできた。乗客が、私一人から二人になった。でも、私はすぐ降りてしまう。バス事業の採算は取れているのか気にかかる。
ついこのあいだまで秋の日和が続き、暖かかったのに今週からぐっと冷え込んだ。バス内の暖房で頬はのぼせるが、手足の指先だけが冷たい。バスのアナウンスが「次は、春日三丁目」と告げたので、降車ボタンを押した。

落ち葉の赤は、雨に打たれるほど深く色づく気がするのは、どうしてだろう。バス停のベンチも無残にびしょぬれで、ひどく寒々しい。ビニル傘を差して濡れた土を歩く。あたりは白く雨に降り込められている。布製のブーツにしっとりと雨が浸みてきた。こういうときにレインブーツを履いてこない自分は本当に脇が甘い。
迎えなど来ない。迎えを期待する気持ちがないといったら嘘になるけれど、こういうときにバス停まで迎えにくるひとではない。諦めて、靴下まで浸み込んでくる雨が気持ち悪いと思いながら、どんどん歩く。気にせず歩く。いちいち気にしていたら、なんにも事が前に運ばない。

あのひとの家へと向かう石段を上りながら、散らばった落ち葉を踏んでいく。枝から落ちたこまかな枯れ葉は、それぞれ奥深い色をしているが、ただ私に踏まれる運命にあった。上っても、上っても、息を切らしながら上っても、こんなに必死なのに私の心の内など気にかけてくれるひとでないのが、また腹が立つ。それでも、私は行かねばならないのだ、あのひとに大事なものを届けるために。
あのひとは、私の顔を見たら笑うだろう。ひとを小馬鹿にしたような、あの厭な笑顔で。全部全部、一挙一動まで次に奴がどうするかまで読めるのに、それでも私は、この坂を上ってあのひとのところへ向かうのだ。濡れた落ち葉を踏みしだいて、向かうのだ。
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こんにちは、初めましての方も、いつも見て下さる方も。 medyというサービスにお誘いを受けたので、実験的に使ってみることにしました。
基本、新しいサービスは(今回は誘われたのもありますが)開発者の方を応援したいし、使い勝手を見たいこともあって、わりと気軽に使ってみることにしています。
ニュースレターって、海外ですごく流行っているみたいですね。メリットがいまひとつまだわからないのですが(笑)書いていくうちに慣れるかな、とも。
自己紹介ですが、noteで2014年から7年間小説やエッセイを書いてきて、2020年に書籍化したいち作家です。(PHP文芸文庫から「金沢 洋食屋ななかまど物語」として発売中。

今回、medyというサービスを使ってみようと思った理由として、私が愛着を持っている掌編小説(ショートストーリー)だけの置き場所がほしかった、ということがあります。noteでは4000字からそれ以上の作品を発表するサイトとしてこれからは利用し、掌編と日記はちょっと実験的にmedyさんに新作を置いてみようかなと思いました。
掌編も掌編集も、すっごい好きなんですよ~!とくに石田千さんの作品がとても好きで、たくさん持っています。おすすめは「みなも」や「窓辺のこと」。柔らかい筆致でまるく優しい言葉たちが並んでいるので、ぜひ、気になった方は探してみてくださいね!
今日は夫が休みだったので、お義母さんの誕生日プレゼントを一緒に探しにいきました!美味しそうなマロンケーキをゲットできたので、送るのが楽しみです。それから、午後は二人で市内の山公園を散歩してきました。
や、運動不足が身に染みる。坂道や石階段、ぜえぜえしますね。でも、秋の午後はとっても穏やかで、木漏れ日に囲まれているとすっきりしました。
今夜は、豚バラとキャベツともやしとにらで鍋をします。〆にはじめて、ラーメンを使おうと思っているのですが、うまくいくかな、ドキドキ。
だんだん冷え込んできたから、温かいものが美味しいですね。
では、今回はこのへんで。また次回お会いしましょうね。
※掲載写真は写真ACさんからお借りしております。




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